日本を離れアメリカに住んでみると、最初は現地の慣れない習慣にやきもきしたりすることがあります。そのような日本にはない習慣の1つがチップの支払い tipping)。アメリカでは、レストランやホテル、タクシーなど様々な場面でチップを支払う必要が出てきます。ちなみに、欧米諸国でこのように様々な場面でチップを支払う習慣がある国は、アメリカとカナダだけ。また、レストランだけでチップの支払いが必要になる国は、アイルランド、オランダ、ロシア、オーストリアなど。

今回は、今さら聞けないアメリカにおけるチップの仕組みについて簡単に解説していきます。

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チップは受け取る人にとって「給料の一部」

日本では馴染みがないチップの習慣。日本の場合、チップに相当するであろうサービス料金も予め請求額に含まれているため、アメリカのようにお客がサービスの金銭的価値を決める機会がそもそもありません。一方アメリカの場合は、レストランやホテルの従業員、タクシーの運転手は通常、雇用主からは最低賃金(minimum wage)しか受け取っていません。その代わり、お客からは自らが提供したサービスの対価をチップという形で受け取っています。よって、最低賃金+チップが彼らの合計収入ということになります。

レストランのウエーター・ウエイトレスの場合、毎日のチップの収入がその日の時間給の合計を上回ることも珍しくありません。なので、チップは彼らにとって大切な給料の一部になるわけです。確定申告書( tax return)においても、チップは課税所得( taxable income)として見なされます。

結局、チップはいくら払えばいいの?

では、チップは実際にどのくらい払えばいいのか? 一般的な基準としては、最低15%以上が目安と言われています。一方、サービスの質があまりにも悪かったり、または逆に良かったりした場合は、個人の感覚で金額を上下させてもよいでしょう。ただし、サービスの質が悪かった場合のチップの支払い方については、後々トラブルにならないよう注意が必要です。この後「チップを支払わないとどうなる?」で私の体験談を書いているのでぜひ参考にしてください。

チップが必要になるサービスを「レストラン」「ホテル」「タクシー・ウーバー」の3つに分けて、チップの目安を以下のチャートにまとめてみました。

レストラン ウエーター・ウエイトレス サービスの質に応じて、15%~20%程度
車の駐車サービスvalet parking 車をレストランの入り口に出してもらった際に、1ドル程度
ホテル 客室係housekeeper 2泊以上の場合に、1日に付き1ドル程度(高級ホテルの場合は、3-5ドル程度)*ただし、最近はチップを置かないケースも増えている
車の駐車サービスvalet parking 車を駐車場から出してもらった際に、1ドル程度(到着時には不要)
ベルボーイbellhop ホテルの部屋まで運んでくれた荷物1個に付き1ドル程度
ルームサービスのウエーター  料金の15%程度
タクシー・ウーバー 運転手 運賃・料金(fare)の15%程度

チップを払わないとどうなる?・・・チップにまつわる私の”珍”体験談5選

私が実際にアメリカで体験した、チップの支払いにまつわるエピソードを5つ紹介します。

体験談 <第1話> 1セントのチップが意味するもの

私がまだアメリカで留学生だった頃、友人とLAにあるとあるレストランで体験した出来事。(「とあるレストラン」と言いつつ、上の画像をみれば一目瞭然ですが・・・笑)

自分の注文した料理がいつまでたってもこない!他に注文した品は全部きているのに、ある1品だけがこないので担当のアジア人ウエーターに「○○も注文したんだけど、きてないですよ」と告げると、そのウエーターはムッとして「あなたの声が小さくて聞こえなかったから」などと言い訳に終始する始末。

この対応には友人も私も一瞬目が点になり、「これは、チップはなしだな・・」と言うと友人は、「いや、チップがまったくなしだと相手は我々が『チップを置き忘れたんだ』と思うかも。だから、ここは1セントだけ置こう。つまり、『我々はチップを置き忘れたわけじゃない。君のサービスは1セントの価値しかないんだ』ということを分からせるためにね」と。

なるほど、そういう対応の仕方もあるわけか、と感心?しつつ、我々は1セントだけ置いてそのレストランを後にしました。・・・かなり嫌味な僕たち・・・笑

ただ、今振り返って思うと、本当にそれでよかったのかな?と思うこともあったり。アメリカは主張しないと損をする国。言いたいことをはっきり言わずに悶々とした気分でレストランを後にするより、そのウエーターに一言申すべきだったのかも。

「一言申す」といっても、相手に食ってかかるのではなく、

You should've asked me if you really didn't hear what I said.「聴き取れなかったなら、その場でもう一度確認すべきじゃなかったんじゃない?」

・・・などと紳士的に告げる、とか。そのうえで相手の出方を見て、それでも相手の対応に納得いかないのであれば、

You are acting very rude to your customer, so we refuse to pay tips.「お客に対して態度が悪いから、チップは払わないよ。」

・・・などと言って席を立った方が釈然としたのかな?と思うことも。

このように相手に対して物を申すには、ある程度の英会話力が必要ではあるが、もしある程度英語に自信があれば、主張してみるのもアリだと思います。

そんなわけで、サービスが悪かったからといって、1セントだけ置く手法は必ずしもお勧めできるものではありませんのでご注意を!

体験談 <第2話>「チップを払え!」と後を追いかけてきた中国人

これは私が実際に体験したことではなく知り合いから聞いた話ですが、とある日本人駐在員家族が中華料理店に行ったときのエピソード。その家族、食事を終えた後のお勘定の精算時にチップを支払わなかったか、チップを置き忘れてしまったようです。そのままレストランの外に出たら、中国人があとを追ってきて「チップを払え!」と言ってきたそうです。 

まあ、たしかにチップの支払いをしなかったのはまずかったのですが、レストランの外まで追っかけてくる、というのもすごいなぁ~と思うわけで・・・汗

くれぐれも、チップの支払い忘れには注意しましょう。特に「中国人経営の」中華料理店では!笑

体験談 <第3話> チップを強制的に支払わされた!こんなのあり?(怒)

ユタ州にある Arches National Park に彼女と旅行に出かけた時のエピソード。パーク近くにある Moab という街にある某レストラン。とても混んでいて人気のあるレストランのようだ。食事を終えてウエートレスに Check, please.「勘定お願いします」と声をかけた。すると、ウエートレスは勘定を手渡す際、真顔で「勘定にはチップが予め含まれているから、きちんと払ってくださいね」と念を押してきた。しかも上から目線で高圧的な言い方で。

つっけんどんで、すごく感じが悪い。しかも、すべてのお客にチップを予め含めた勘定を渡しているわけではなく、どうやら我々だけにそうしたようだ。我々があっけにとられていると、「こちらの文化・慣習を知らない旅行客でチップを支払わない人が多いから」だそうだ。

当時、留学生という身ではあったが、アメリカの文化慣習はそれなりに理解しているとの自負があったし、そもそも「無知で素人の旅行者」と見られたこと、さらに(アジア人という)見た目でそう判断されたであろうことにはいささか腹が立った。当時は、言われるままに支払ったが、おそらく20%以上の高額チップを請求されていたと思う。

チップの代金は一般的には、お客が受けたサービスについて、あくまでもお客自信の判断で支払うもの。チップの日本語訳の1つに「心づけ」という表現があるように、チップとは「美味しい料理、素敵なサービスを提供してくれてありがとう!」という「心から」感謝の意を表す手段でもあるはず。それをはじめから店側に勝手に決められてしまったのでは、お店のサービスの価値を判断する機会をお客から奪ったのも同然。しかも、あのように高飛車な感じで言われれば、お客としては不愉快になるもの当然だ。

今思えば、ウエートレスに対して

We DO know this American custom of tipping. We're not comfortable when you treated us like ignorant tourists or something. It's not nice to stereotype people like that.「アメリカのチップの習慣くらいは知ってますよ。それより、我々のことを無知な旅行者みたいに勝手に決めつけられたことに対して不愉快です。そういう偏見はよくないですね。」

・・・くらいな「反論」はしたかったな・・とも。

体験談 <第4話> チップの金額を自分で決められない場合も?

「チップの金額を自分で決められない」・・・そんなケースもあるんです。実は、このケース、最近遭遇したばかりの出来事なのですが、とある美容院(hairdresser)での料金支払い時に知ることに。私が現在通っている美容院(「美容院」といっても、床屋の感覚で利用していますが・・・)では、支払い時にクレジットカードリーダーにクレジットカード差し込むと、請求額が表示されたあと、チップの%が自動的に表示されるんです。しかも、15%、20%、25%の3つ選択肢から自分の支払いたいチップを選ぶ仕組みになっています。言い換えると、3つの%うちどれかを選ばなければ支払いが完了しないんです。

つまり、店側としてはチップを受け取り損ねることはなく、しかも最低15%のチップは確保できるんですね。なかには、10%しか払いたくない、という人もいるかもしれませんが、最低15%なので15%を選ぶしかありません。店側としては、最低15%は払え、ということなんでしょう。まあ、自分が通っている美容院のサービスには満足しているので、15%以上でも私は全然問題ないわけですが・・・。お客によっては、チップの支払い方の自由度が制限されている、と感じる人もいるかもしれませんね。

体験談 <第5話>「チップは払いません!」と宣言

最後の体験談は、チップの支払いを自ら拒否した、というエピソード。自宅から空港までシャトルで移動したときのこと。一般的なシャトルサービスの場合、同じ地域に住んでいる他のお客さんもピックアップして空港に向かうことが普通です。なので、個人のタクシーで行くよりもその分時間がかかります。しかし、シャトルのドライバーには予め航空会社やフライトの出発時間などの情報を伝えてあります。複数のお客をピックアップするわけなので当然、時間には余裕をもって運航計画を立てていなければならないはず。

にも関わらず、予め決まっていたピックアップの時間に遅れ、フライトの出発時間ギリギリに到着するという失態。我々より先に別のお客がシャトルを降りた際、ドライバーはそのお客に対し「チップを払ってくれないか?」ときいていました。フライトの時間ギリギリに到着しておいて、よく言えるもんだな・・・ですよね? もちろん、そのお客は時間に遅れたことを理由にチップの支払いを拒否。

このドライバー、我々がシャトルを降りたときも同様にチップの支払いを求めてきました。しかし、先のお客と同じく「今回は(遅延を理由に)支払いません!」ときっぱり。以後、このシャトルサービス会社を利用することがなかったのは言うまでもありません。(*念のため、上の写真と今回のエピソードとは無関係です)。

チップの支払いが必要なのは、レストラン、ホテル、タクシー・ウーバーばかりじゃない

アメリカでチップの支払いが必要になるサービスは、レストラン、ホテル、タクシー・ウーバーが代表的ですが、他のサービスでも必要になる場合があります。 上の体験談の第4話で紹介した美容院もそうですね。私自身、アメリカに来て初めて美容院でもチップを支払う習慣があるということを知りました。美容院でのチップの目安は、レストランと同様、最低15%が目安です。

美容院のほかには、洗車サービスの car wash の店舗。特に hand car wash(機械ではなく人が洗車や乾拭きをする)の場合はチップを支払った方がよいとされるケースもあります。私は最初は気づかず払わずにいたのですが、ある時ほかのお客が1ドル紙幣を差し出していたのを見て、払った方がいいんだなと気づきました。

hand car wash の店舗でチップを払うタイミングは、車の乾拭きが全部終わったタイミングで乾拭きをしていた従業員がレシートを持ってきて「乾拭きが終わりましたよ」と告げられた時です。その際、”Thank you!” と言って1ドル紙幣を渡すのがよいでしょう。

人から直接何らかのサービスを受けた時は、サービス内容に関わらず、チップの支払いが求められることがあると理解しておくといいでしょう。

タクシーに乗るときに注意したいこと

昨今アメリカではタクシーに代わり、ウーバー( uber)の利用が増えてきました。ウーバーの台頭により、サービスのよくないタクシー会社(特にニューヨークのイエローキャブ)は淘汰されつつあるようです。よって、悪徳のタクシー業者対策については以前ほど気にする必要性は薄れてきているかもしれません。

しかし、どうしてもタクシーを利用しなければいけない場合には、下記について注意が必要です。

● タクシーの運転手が料金を言ってくれない場合(または、タクシーのメーターが読み取れない場合)  ☛ 必ず「料金はいくらですか」What is the fare? と確認します。

● レシートが必要な場合 ☛ I need a receipt. 「レシートが必要です。」とか、Give me a receipt. 「レシートをください」と運転手に伝えます。

● お釣りが必要な場合 ☛ I'd like change.「お釣りをください」と、チップを支払う前に運転手に伝えます。料金の支払いを終えた後に返ってきたお釣りの中からチップを支払います。そうでないと、例えば料金が25ドルだった場合に、20ドル札2枚の40ドルを渡して “Thank you.” と言ってしまうと、15ドル分がチップだと勘違いされることがあります。よって、賢い方法としては、タクシーやウーバーに乗る前には予め少額の紙幣を用意しておくよう心がけましょう。

お勘定に「サービス料」が予め含まれていたらどうする?

 

お勘定にサービス料が含まれている場合、さらにチップを払う必要はありません。アメリカの一部のレストランでは、チップが予め込まれていることもあるため、それ以上にチップを払ってしまわないよう気を付けましょう。上の画像のように、18% Gratuity Included とスタンプが押されており、請求金額に $3.33 のチップ が込まれています。このような場合は、追加でチップを支払う必要はありません。ちなみに、gratuity は tip のフォーマルな表現で意味は同じです。

チップを置く場所や置き方にも気を遣おう

細かい点ですが、チップを置く場所や置き方についてもマナーとして押さえておきましょう。

チップを置く場所・・・レストランの場合

 レストランでチップを置く場合(請求金額の支払い後)は、左の画像のように勘定書の上にキャッシュを置きます。トレーがある場合はトレーの上に勘定書と一緒に置き、レシートホルダーの場合はその上に勘定書と一緒にチップを置きます。クレジットカードで食事の料金と一緒にチップを払う場合は、クレジットカードを渡した後にお店が持ってくる店側のコピーmerchant copy上にチップ金額と合計金額を記入し、店側のコピーの方をトレー上に置いておくか、レシートホルダーの場合はその中に店側のコピーを入れておきます。この場合、customer copy と記載がある方が、お客のレシートになります。誤って、店側のコピーを持っていかないように注意しましょう。また、食事の料金だけクジレットカードで払い、チップだけキャッシュで置いていっても構いません。

チップを置く場所・・・ホテルの場合

ホテルの部屋で客室係(housekeeper)にチップを払う場合、ベッドの脇にあるナイトテーブルの上に “Thank you” メッセージを添えて置いておきます。または、ホテルに備え付けてある封筒の上に “Thank you, Housekeeper!” と書いたうえで、封筒の中に紙幣を入れ、ナイトテーブルの上に置いてもよいでしょう。ただし、枕の上下やベッドの上にチップ置くのはNGです。

まとめ

1.チップは受け取る人にとって、大切な給与の一部である。

2.チップは最低15%が目安(レストラン、タクシー・ウーバー、美容院等の場合)。

3.タクシーやウーバーを利用する際は、チップ用の少額紙幣を予め準備しておく。また、チップを現金で支払う場合でお釣りが必要なときは、受け取ったお釣りからチップを支払うようにする。

4.お勘定にサービス料が予め含まれている場合は、追加でチップを支払う必要はない。

5.チップを置く場所について、レストランではトレイの上、またはレシートホルダーの中に置いておく。クレジットカードで支払う場合は、店側のコピーを置いておく。