日本では2018年9月28日に公開された映画「クレイジー・リッチ!」(原題は Crazy Rich Asians)。先日わたしも観に行きましたが、特に国際恋愛や国際結婚に興味のある方にはお勧めの映画です。基本的には恋愛コメディーなので、カップルで気軽に観に行ける映画なんです。

今回のコラムは、映画「クレイジー・リッチ!」についての見どころをいろいろな角度からお伝えしたいと思います。ネタバレ(ストーリーの結末)は書いていないのでご安心して読み進めてください~!

の印のある英単語・英文はクリックすると音声が聴けます!

まず、「クレイジー・リッチ!」ってどんな映画?

まず私が現在住んでいるアメリカ国内では、「キャストがほぼ全員アジア人という映画はハリウッド映画市場では実に25年ぶりである」と紹介されています(英語では下記のように紹介)。

Crazy Rich Asians is the first major Hollywood production in 25 years to boast a predominantly Asian cast.

英文の引用元記事Meet the Sexy, Hilarious and Revolutionary Cast of 'Crazy Rich Asians' (Exclusive)「映画『クレイジー・リッチ・エイジャン』のセクシーでひょうきんな革命的キャストを紹介(特ダネ)」)

「キャストがほぼ全員アジア人という映画は25年ぶり」って、いかにハリウッドが白人中心の業界だというのがよく分かりますね。でも今回の映画の話題はそこだけではなく、キャスト自体が豪華すぎる!ということでも注目を浴びています。(キャストの紹介はのちほど詳しく書いています。)

映画「クレイジー・リッチ!」のあらすじ(ネタバレなし)

中国系アメリカ人のレイチェルはニューヨーク大学で経済学を教える大学教授。彼女の恋人のニックも同じ大学の教授仲間。ニックは友人の結婚式に出席するためシンガポールに里帰りするのだが、恋人のレイチェルも連れていき、家族に紹介しようと彼女を誘う。空港に到着してみると、ファーストクラスのエスコートサービスが待っていた。その時になって初めてレイチェルはニックがとんでもない大富豪家族の息子であることを知る。

しかしシンガポールに到着してニックの家族に会ってみると、様々な苦難がレイチェルを待ち受けていた。ニックの母親であるエレノアは、レイチェルのようなアメリカ移民の生い立ちを持つ人間は彼女の由緒ある家柄や価値観には合わない、と二人の交際に大反対。二人の恋の行方に暗雲が立ち込めるも、最後はお涙を誘う感動的な展開に・・・。

基本的には恋愛コメディなのですが、「愛」や「家族」の在り方を問うシリアスな内容も盛り込まれた「泣けるラブコメ」です。

日本語字幕付きの予告編 trailer はこちら↓

一部、この映像の日本語の字幕では正確に伝わってこない(ニュアンスが違って伝わってしまう)訳があると思ったので、以下に補足をしておきたいと思います。

(1:00)  Goh Peik Lin 役の Awkwafina のセリフ

   ・英語のセリフ:(They are) yellow on the outside and white on the inside.

   ・日本語字幕:「世界が違いすぎる」

   ・本来の意味:「(彼らは)外見は黄色人種で中身は白人」

(1:35) レイチェルの隣でアロママッサージを受けている女性のセリフ

   ・英語のセリフ: I really admire you.

   ・日本語字幕:「身の程知らずね」

   ・本来の意味:「あなたのこと、本当に尊敬するわ」(「すごいよね」などの皮肉の意味が込められている)

(2:13)  Rachel Chu 役の Constance Wu のセリフ

   ・英語のセリフ: He might spend the rest of his life resenting you.

   ・日本語字幕:「彼は一生幸せにはなれない」

   ・本来の意味:「彼は残りの人生をあなたを恨みながら生きていくことになるかもしれない」

日本語字幕と本来の訳(直訳調に近い)を比較してみると、こんなにも違うのか!と思われるかもしれません。逆に「本来の意味」の日本語から直接英語に訳そうとしたら、おそらく元の英語のセリフにはならないでしょう。

ただ、決して映像内の日本語字幕が間違っているというわけではなく、これはこれで映像翻訳としては立派な訳なのです。映像翻訳では意味を正確に伝えるというよりも、映画の画面に収まる適切な文字数に合わせた翻訳にする、という原則もあるのです。よって、適切な字幕の文字数を意識した「絶妙な」訳が求められているというわけです。

英語がある程度聞き取れるようになってくると、このように映像翻訳と元の英語とのギャップを楽しみながら観る、というのも洋画を観るときの醍醐味の一つになってきます。

「クレイジー・リッチ!」の邦題はちょっといただけない?

先ほどの映像翻訳と元の英語との乖離については、前述の理由により致し方ないケースもあるため理解できます。一方、映画の原題である Crazy Rich Asians の邦題が「クレイジー・リッチ!」となっているのは、個人的にはちょっといただけないなと感じています。

これなら、むしろ原題そのままの「クレイジー・リッチ・エイジャン(アジアン)」とした方が良かったのかな?とも。この映画のキャストのほぼ全員がアジア人であり、まさにアジアンパワー全開の映画。アメリカでも大きな話題となっているのは、アジア人がこれほどまでにクローズアップされたハリウッド映画は25年ぶりだからなのです。

白人キャストも実は映画内でちらほらでてきますが、セリフを言うシーンは恐らく皆無だったと思います。しかも、白人キャストが出てくるシーンは、アジア人男性が白人女性を両脇にお酒を飲んで酔っ払っているような場面なのです。白人キャストが完全な脇役であり、しかもセリフなし! これまでハリウッドの世界では日陰に追いやられていたアジア人。でも、この映画ではアジア人だけがスポットライトを浴びまくっているのです。

それ故、英語の原題には映画の主役である「Asians」が敢えて含まれているのにも関わらず、邦題タイトルから Asians を省いてしまったのは理解に苦しみます。おそらく、邦題タイトルは短い方がいいなどと考えたのかもしれませんが、ちょっといただけないなぁと感じています。

また、念のために書いておきますが、Crazy Rich Asians の意味は「気の触れた金持ちのアジア人」という意味ではなく、「金持ちのレベルが尋常ではない(金持ちレベルがクレイジーである)アジア人」という意味です。つまり、crazy rich とは「半端なく金持ちの」という意味になります。

なぜ国際恋愛や国際結婚に興味のある方におすすめなの?

映画「クレイジー・リッチ!」はアジア人だけにスポットライトを当てた映画であるにもかかわらず、なぜ欧米人との国際恋愛や国際結婚に興味のある方にもお勧めである、と言えるのか?

それは一言でいえば、この映画にはアジア伝統社会の特徴ともいえる家族重視の考え方が描かれているからです。アジア人である日本人女性と結婚する欧米人男性にとって、このような日本を含むアジア特有の価値観については知っておくべきことだと思うのです。

国際結婚におけるお互いの家族との関わり方や距離感については、国際結婚の壁③「文化・価値観の違いは結婚前に確認【中編】~家族/帰省・子供の教育~」でも詳細に解説しています。欧米諸国の結婚ではお互いの家族の考え方や価値観が直接二人の関係に影響する、などということは基本的にほとんどありません。たとえば、姑問題で夫婦が離婚の危機にさらされるなどということは欧米諸国では考えづらいということです。

一方、欧米人男性にとっては、日本を含むアジアの慣習においては二人の結婚にお互いの家族との関係が直接影響することも現実的にあり得るのだ、という気づきがこの映画から得られるという訳です。

また、そもそもアジア人である日本人女性に興味を惹かれて恋愛や結婚をするわけなので、そんな欧米人男性にとって「クレイジー・リッチ!」はとても興味深い映画になるはずです。

そのような意味もあり、ぜひ欧米人の彼といっしょにこの「クレイジー・リッチ!」を観ていただきたいです。映画を観た後に、二人で意見交換するのもいいですね!

What did you think about the movie? 「映画を観てどう思った?」

Japan has the same kind of tradition depicted in this movie. The relationship with your partner's family is also considered important in marriage. 「日本にもこの映画で描かれているような伝統があります。相手方の家族との関係は、結婚生活においても重要であると考えられています。」

同じアジア人同士の間でも差別が存在している現実

この映画のストーリーで個人的に一番印象に残った点を一つ挙げるとしたら、同じアジア人同士(映画では中国人同士)の間でも差別が存在している現実について改めて認識したということ。

映画の中では、アメリカ育ちのレイチェルと恋人ニックの母親エレノアとの確執が印象的でした。レイチェルは中国人でありながら幼い時からアメリカで育ってきているため、見かけはアジア人でも考え方や振る舞いはアメリカ人そのもの。一方、ニックの母親エレノアは、家族を第一に考えることや伝統的な慣習に重きを置いている。お互いに育ってきた環境、慣習、考え方が異なっているわけだから、衝突するのはある意味自然だったのかもしれません。

You'll never be enough.「努力しても無駄よ」とエレノアがレイチェルに口走ったのも、なんとかレイチェルを諦めさせたいという思いからだったでしょう。同じ中国人同士でも相手の家柄や育った環境が異なっていれば、そこに差別意識が自然と生まれます。

また、エレノアは「アメリカ人は自分のことばかり大切にし、家族のことは二の次」というような発言もしています。映画の中の言葉とはいえ、これは言い過ぎでは?と感じましたね。たしかに、結婚後のお互いの家族との関わり合いは、中国や日本を含めたアジア諸国より個人主義が主流のアメリカの方が希薄であることは確かでしょう。でも、だからといって「アメリカ人が家族のことは大事にしない」というのは間違っています。アメリカでは結婚後もお互いの家族とは適度な距離感を保っている、というのが個人的な印象です。そこに家族からの過度な押し付け、というのは基本的にはありません。

どちらが正しいとかではなく、単に文化慣習の違いなのです。

レイチェルに対するエレノアの言動から、お互いに同じ中国人民族でありながらアメリカに移住した中国人に対しては差別意識を持っていることが容易に読み取れます。一方、アメリカに移住をした中国人からみて、自分の祖国である中国や生粋の中国人はどのように見えているのでしょうか? 

そこにはアイデンティティの問題が深く絡んできます。自分は外見はアジア人(黄色人種)でありながら中身はアメリカ人、つまり価値観や考え方や立ち振る舞いはアメリカ人そのものであると認識していることから、アイデンティティの判別に悩むことがあったりします。いわゆる、 transracial異人種間をまたぐ」アイデンティティの問題です。identity crisis自己認識の危機」といってもいいかもしれません。

わたし自身、実はこの問題について今も考えさせられているところです。日本で生まれ育った生粋の日本人でありながら、20代前半でアメリカに渡り、それ以降アメリカ永住を強く意識してきたため、すでに価値観や立ち振る舞いはアメリカ人により近いのです。アメリカに永住している日本人が全員そうか、というとそうではないかもしれません。そこは、どういう事情でアメリカ永住を決心したかという各個人のメンタルや意識に関わってくることなので。

一方、わたしのように transracial の問題を抱えている人間に対して、「単にアメリカナイズされている勘違いな奴」とか「売国奴」、英語では「banana」などと誹謗中傷されることも時々ありますが・・・(汗)。

*bananaAn Asian person who acts like they are white. Yellow on the outside, white on the inside. (この場合の「バナナ」は俗語で「白人のように振舞うアジア人。外見は黄色(黄色人種)なのに、中身は白(白人)」という意味。侮蔑的に使われる。)

ただ、こういった誹謗中傷をする人は、そもそも「アメリカ人=白人」と捉えているわけなのでやはり差別的なんですね。アメリカは移民の国様々な人種が「アメリカ人」を構成しているわけだから。白人のアメリカ人 white American ではなく、アジア系アメリカ人 Asian American なんですよ。

キャストの多くがイケメン・美女なので目の保養になる!

「クレイジー・リッチ!」が注目を浴びているもう一つの理由として、キャストが豪華すぎるということも見逃せません。イケメン・美女のメインキャストを7名ここで一挙紹介していきます!

1)Rachel Chu 役、Constance Wu

アメリカ国籍のアメリカ女優。バージニア州リッチモンドで生まれ育つ。1982年生まれ(現在36歳)。

アメリカABCテレビのコメディシリーズ「Fresh Off the Boat」では Jessica Huang として主役を務める。

映画「クレイジー・リッチ!」では、ニック(Henry Gloding)の恋人役 レイチェル・チューを演じる。

2)Nick Young 役、Henry Golding

イギリスとマレーシアの国籍を持つ、イギリス系マレーシア人の俳優。生まれはマレーシア、べトン。

1987年生まれ(現在31歳)。英国BBCテレビ番組「The Travel Show」の司会やモデルの経歴あり。

映画「クレイジー・リッチ!」では、レイチェル(Constance Wu)の彼氏役ニックを演じる。Constance Wuの5歳年下。

3)Eleanor Sung-Young 役、Michelle Yeoh

マレーシアの女優。生まれはマレーシア、イポー。1962年生まれ(現在56歳)。

ジェームズ・ボンド映画第18作「007 Tomorrow Never Dies」(1997年)や 「SAYURI(Memoirs of a Geisha)」(2005年)に出演。

映画「クレイジー・リッチ!」では、ニック(Henry Golding)の母親役エレノアを演じる。

4)Goh Peik-Lin 役、Awkwafina

アメリカ国籍のアメリカ人ラッパー・女優。生まれはニューヨーク。1989年生まれ(現在29歳)。

本名は Nora Lum。Awkwafina は芸名。映画「Ocean’s 8」(2018年)に出演。

映画「クレイジー・リッチ!」では、レイチェル(Constance Wu)の友人役 Goh Peik-Linを演じる。

5)Astrid Leong-Teo 役、Gemma Chan

英国籍のイギリス人女優。生まれはロンドン。1982年生まれ(現在35歳)。

オックスフォード大学で法律専攻。中国名は「陳靜」。英国のサイエンスフィクションTV番組「Humans」に出演。

映画「クレイジー・リッチ!」では、レイチェル(Constance Wu)の友人役 Astridを演じる。Gemma Chan の美貌は出演している女優の中でも別格。

6)Araminta Lee 役、Sonoya Mizuno

日本と英国の二重国籍を持つ、日系イギリス人女優・モデル・バレリーナ。東京生まれ。1986年生まれ(現在32歳)。

父親は日本人、母親はイギリス人とアルゼンチン人のハーフ。映画「La La Land」(2016年)「美女と野獣」(2017年)に出演。

映画「クレイジー・リッチ!」では、ニック(Henry Golding)の友人コリン(Chris Pang)のフィアンセ役 Araminta Lee を演じる。この映画では唯一の日系人女優。

7)Colin 役、Chris Pang

オーストラリア国籍のオーストラリア人俳優、プロデューサー。オーストラリア、メルボルン生まれ。1984年生まれ(現在33歳)。台湾人の血筋を引く。

アメリカのドラマ「マルコポーロ」(2014年)に出演。

映画「クレイジー・リッチ!」では、ニック(Henry Golding)の幼馴染の親友役コリンを演じる。

映画の舞台はシンガポールなので Singlish(シンガポール訛りの英語)が聞ける?

映画の舞台のほとんどがシンガポールなので、Singlish (シングリッシュ=シンガポール訛りの英語)が聞けるのかな、と思いきや、あまり出てこなかったですね。基本的にキャストはほぼ全員アジア人なのですが、メインキャストのほとんどがアメリカまたはイギリス育ち。よって、役柄としてもあえて Singlishを話すこともなくて、普通にアメリカ英語またはイギリス英語でした。

ちなみに、Singlish ってどんな英語かというと、百聞は一見に如かず、以下の動画をご覧ください。この動画では、メインキャストの Constance Wu、Ken Jeong、Henry Golding、Michelle Yeoh が Singlish の代表的な単語の意味が分かるかどうか試されています。

どのキャストの皆さんもSinglish は流暢には話せないものの、単語のいくつかはご存知のようですね。この動画の質問に出てきた Singlish の単語は以下の通りです。

1)lah  → 「lah(ラ~)」に特に大きな意味は無く、単に語尾に「lah」を付けることがよくあります。

<例> OK lah!「いいよ~」、How are you lah?「ご機嫌いかが?」

2)shiok → ”delightful”「楽しい、嬉しい」

<例> Shiok, man! I feel good.「楽しいね!気分いいよ。」

3)makan → ”food” 「食べ物」

4)chili crab → 「チリソースがたっぷりかかったカニ料理」

最後に

映画「クレイジー・リッチ!」・・・ぜひ、欧米人の彼氏と一緒に観てください!素敵なラブコメなのでデートにはピッタリの映画だと思います。

映画「クレイジー・リッチ!」の日本の劇場情報はこちらです。また、英語の公式サイトはこちらです。